2008-10-13 11:41:11
イナゴである。蝗の季節である。子供の頃、田圃の中に忽然と出現する新興住宅地に住んでいた。周囲は田なので、秋には蝗がたくさん発生した。隣の家の人が、蝗好きだったようで、秋になると、農薬散布の前に蝗をたくさん捕ってきて佃煮だか甘露煮だかにしていた。大量に作ってしまうと自分の家では食べきれなくて、近所にお裾分けということになる。そんなわけで、ときどき我が家にも蝗が食卓に出現した。
私の家族は特に蝗が好きだったわけでもなく、もらってしまったから少し食べようかと、些か困惑気味に食卓に登場するのである。あれは受け付けない人は、どうにも無理だろう。ちぎれた脚が散らばっている様子は、まるでBlattella germanicaの脚そっくりである。詳しい人が見れば違いは一目瞭然なのかも知れないが、素人目には区別がつかない。でも、私は平気である。蝗だと思えば、何ともない。蝗なのだから。その中に数本Blattella germanicaの脚が混ざっているんじゃないかなんてことは考えない。考え始めるとだんだんその姿がBlattella germanicaにしか見えなくなってくる。もう口の中であれがもぞもぞ動き出すんじゃないか、胃の中で生き返って動き出すんじゃないかという想像が頭の中に満ちてきてしまうから。だから、考えない。黙って食べる。でも、気がつくと、黒くててかてかしたBlattella germanicaが頭の中を縦横無尽に走り回っている。頭を掻きむしって叫び出したくなってくる。
それでも、何食わぬ顔をして食う。それがなめられない食事のマナーというものである。