2009-06-07 22:44:05
私は子供の頃から頭痛に苦しめられてきた。ちょっと疲れがたまると頭痛に襲われ、そして吐いた。それが疲れがたまっているからだと気づいたのは、実はもう30くらいになってからだった。大学院生の頃はいつも疲れていたので、週末にはたいてい倒れて吐いていた。いや、疲れているからだとは気づいていたのだ。だから疲れをとろうと週末はゆっくり休んでいた。それがいけなかったのである。それに気づいたのが30過ぎてからだ。正確に云えば。
週末頭痛というらしい。私だけでなく週末になるとよく頭痛に襲われる人がいるということを、頭痛の本を読んで知った。急に休んではいけないのだ。この手の頭痛に苦しむ者は休日だからといって開放感に浸ってゆっくり休んではならないのだ。いつもと同じ緊張感を持って過ごさなければならない。だから、普段からあまり疲れないように気を付け、規則正しく、日曜日だからといって昼間で寝ていたりしてはいけない。
そんな訳で、早寝早起きを心がけ、一日三回の食事を摂り(空腹は頭痛を誘発する)、赤ワインを避け(赤ワインは頭痛を誘発するのに気づいたのは40近くになってからだった)、そのほかさまざまなことに気を配る毎日を過ごし、嘔吐を伴う頭痛を年に数回程度にまで抑えることができるようになった。
もう自分の頭痛は生活や仕事に支障をもたらすことはないと安心して生活していた今日この頃なのだが、その私に衝撃を与える論文が発表された。Cephalalgia 29: 683 - 686 (2009) に掲載されたSpace headache: a new secondary headacheである。宇宙の頭痛である。私もこんな学術雑誌をいつも読んでいるわけではなく、Technobahnの無重力は見かけほど楽じゃない、宇宙飛行士の7割以上が頭痛の症状とい記事を読んだだけなんだけど。
「地上ではまったく健康だったのにも関わらず、宇宙に出ると頭痛に悩まされるという「宇宙酔い」とも呼べる新しい症状が宇宙飛行士の間で広くみられる」という内容だという。私も宇宙に行きたかったのに。死ぬ前にいちどでいいから行ってみたいと思っていた。そのためには健康で長生きしなければと思い、規則正しい日々を送って来たわけである。それなのに無重力状態が頭痛を誘発するとは。無重力状態で嘔吐するのだけは嫌だ。無重力状態を漂う反吐を頭に思い浮かべただけで吐き気を催すではないか。宇宙服の中で吐いたらどうなるかという厳しい極限状況を描いたSFがあったが(田中啓文「嘔吐した宇宙飛行士」:ハヤカワ文庫JA『銀河帝国の弘法も筆の誤り』[amazon.co.jp, bk1, 楽天, 紀伊國屋書店, Yahoo! Books]所収)、あれだけは嫌だ。
私は今、将来設計の大幅な見直しに着手しようとしている。宇宙に行って月で暮らそうか火星で暮らそうか迷っていたのに。火星には重力があるから大丈夫だと思うが、途中の旅が厳しいかも知れない。火星は遠いから。慣れてはいるが、頭痛は本当に辛い。もう死んで楽になりたいと思うくらいだ。私の場合、3時間で治ることが判っているから、本気で死にたいとは思わないが、これが何日も続く人もいるという。そんなひどくなくて本当によかった。
という訳で、将来はこの地球をしっかりと踏みしめて生きていこうと決意を固めつつあるところなのだ。