2009-07-05 18:18:28
西田公昭『だましの手口』(PHP新書)[Amazon.co.jp, bk1, 楽天, 紀伊國屋書店, Yahoo! Books]
世の中には人を騙そうという奴らがたくさんいる。もっと困るのは、騙すつもりではなく本気で気が狂ったようなことを勧めてくるいい人たちだ。私のように気が弱くてNOといえない人間は常に怯えて生きていかなければならない。
この本にはどうして人は騙されるのかということが書いてある。騙されやすい人は、そしてそうでない人も、こういう本を読んで人を騙す奴らの手口を知ったり再確認した方がいいと思う。私は自分が人がいい正直者だと判っているので、ときどきこの手の本を読んで気を付けるようにしている。「何気なくとった自分の行動を正当化する(後悔回避)」とか、「自分のものになると二倍高い評価をする(保有効果)」、「『今しかない』『二度とないチャンス』と思わされる(希少性)」など、私のことを書いているとしか思えない項目である。ひょっとしてどこかで見張られているんじゃないかと不安になったくらいである。「他人の行為にはお返ししなくてはいけない(返報性)」は私にはまったくない考えなので、これを見て、私が見張られているのではないことを確信した。私は他人の好意はありがたくいただいてこそ価値があると信じているから、ありがたくいだたいて感謝して終わりである。
私がまだ大学生だったころ、英会話の教材を売りつける会社の人から電話が掛かってきたことがあった。何度もかかってくるわけだが、いつもは断って電話を切るのに、よほど暇だったのか、魔が差したというのか、そんなに会いたいというなら会ってもいいよと云ったことがある。甘い女性の囁きに惑わされたわけではない。相手は男だった。自分は決してその教材を買わないこと、お互いに時間の無駄になることなど、念を押してそれでもいいのかと云ったら、それでも構わない、会って話すのが仕事だからいいのだとその男は答えた。
駅の喫茶店で電話で説明されたことを、いろいろ資料を見せられながら説明を受けた。価格は確か30万円くらいだったと思う。私は英会話にはほとんど関心がないこと、そんな金は持っていないことを理由に、要らないと断った。30万円くらい働いて稼いで払えばいいじゃないか、不可能な額ではないし、みんなそうやって払っているよと云われたが、自分は英会話に価値を見出していないのだから、そんなことのためにアルバイトなんかしない。そんな金があったら本を買う。英語だろうが日本語だろうが、私は人と話をするのは嫌いなのだ。金を払って嫌なことをするつもりは全くない。というようなことを繰り返し答えた。
二時間くらい話しただろうか。やがてその男は諦めた。「こういう人は珍しい。滅多にいない。ここまで来るとほとんどの人が購入するんだけどね」と云われて驚いた。みんな買うのか、こんなもの。私は素直に、その言葉に驚いたと伝えると、本当なのだと繰り返した。一見、真面目そうな35歳くらいの男性だった。こんなに時間を使って教材が売れなくて損をしてしまったんじゃないですかと云うと、でもこんな人と話すことは滅多にないので面白いからいいんだと答えた。普通は、こんな遠いところまで時間を掛けてやってきて、丁寧に説明してくれる人に冷たくできなくて、そうですよね、英語は大事ですよね、これからは英会話ができないと仕事にも困りますよねなんて云って、契約書に名前を書いたりしてしまうんだろうか。私はあれだけ前もって警告したんだから、手ぶらで帰ることになっても仕方がないだろうと思っていた。
人の好意にはお返しをしなくてはならないと思っていないし、人の云うことは全然信用しない。それでも、いつ騙されるか判らない。しっかりした人たちが毎日騙されているのだ。明日騙されるのはこの私かも知れないのだ。