『クオリティランド』(森内薫訳/河出書房新社/2019)で日本に紹介されているマルク=ウヴェ・クリングのDie Känguru-Chronikenを読んでみた。隣に引越してきたカンガルーに振り回される主人公の毎日が軽妙で笑いに溢れた文章で綴られる。言葉を話すカンガルーが出てくるが、お伽話ふうのほのぼのとした話ではなく、カンガルーは共産主義者で、語り手と探偵事務所を設立したり、精神科医を狂わせたり、騒動を起こしたりすることもあれば何となくぼんやりした話で終わることもある。すべて現在形で記されていて、その書き方自体もカンガルーに莫迦にされたりすることもあり、そうすると「過去形だって使える」とか「現在完了だって!」とか、次々に時制を見せていってくれるところなどは日本語に訳すとなると難しいだろうなと思う。
現在までに4巻が刊行されているようである。第一巻が面白かったので、第二巻を読もうとしたら難しくて読めなかった。どうして第一巻が読めたのかはよく判らない。
うまくその雰囲気を出せているかどうか判らないが冒頭部分はこんな感じ。
〈向かいのカンガルー〉
ピンポーン、呼び鈴が鳴る。僕がドアまで行って、開けると、カンガルーが目の前に立っている。瞬きをして下を見ると階下へ下りる階段が見える。それから、上へ昇る階段を。正面を見る。カンガルーはまだそこにいる。
「こんにちは」カンガルーがいう。
首を動かさずに、もう一度、左を見て、右を見る。時計を見る。結局、カンガルーを見る。
「こんにちは」ぼくはいう。
「向かいに引越してきたばかりなんだけど、パンケーキを焼こうと思ったら、卵を買うのを忘れていることに気がついて……」
ぼくは頷いてキッチンへ行って、卵を二つ持って戻って来る。
「どうもありがとう」カンガルーはそういって、卵を袋の中に放り込む。
ぼくが頷くと、カンガルーは向かいの部屋のドアの向こうに消える。ぼくは左手の人差し指で鼻の頭を何度か擦る――そして、ドアを閉めた。
すぐにまだ呼び鈴が鳴る。瞬時にドアを開ける。ぼくはまだドアの前に立っていたからだ。
「あっ!」カンガルーが驚いたようにいう。「ずいぶん、速く鳴るんだ。ええと……たった今、気がついたのだけど、塩も持っていなくて……」
ぼくは頷いてキッチンへ行って、塩入れを持って戻って来る。
「どうもありがとう! もしかして、牛乳と小麦粉も少し……」
ぼくは頷いてキッチンへ行く。カンガルーは受け取って、礼をいって去る。二分後にまた呼び鈴が鳴る。ぼくはドアを開け、カンガルーにフライパンを調理油を差し出す。
「ありがとう」カンガルーがいう。「冴えているね。もしかして、泡立て器か攪拌器を持っていたら……」
ぼくは頷いて、キッチンへ。
「それから、もしかしてかき混ぜるのに使えるボールもあったら」カンガルーが後ろからぼくに呼びかける。
十分後、また呼び鈴が鳴る。
「レンジが使えなくて……」カンガルーがいう。
ぼくは頷いて、中へ入れてやる。
「そこのすぐ右だから」ぼくはいう。
カンガルーはキッチンに入って、ぼくはその後ろに続く。でも、あまりにも不器用なので、ぼくが代わる。
「中に入れるものがなにかあったら……野菜とか挽肉とか?」カンガルーがいう。
「挽肉だったら、まず買い物に行かないと」ぼくがいう。
「大丈夫。時間はあるから。生地も少し休ませてやった方がいいし」とカンガルー。
ぼくは鍵掛けから鍵を取る。
「でも、リドル[ドイツのディスカウントスーパーマーケット]はやめておいて」カンガルーの声が後ろから聞こえる。「あそこは労働条件が悪くて……」
ぼくは肉屋へ行って、挽肉を買う。部屋に戻るとき、隣に住む女の人に会ってしまう。
「新しく来た人に会った?」と訊かれる。
ぼくは頷く。
「この辺の出身じゃないでしょう?」といって、小さなヒトラー髭をひっかく。もちろん、彼女にほんものの髭が生えているわけではない。産毛というべきものだ。ヒトラー産毛だ。
「すぐに、トルコからひと家族まるまる押しかけて来るんじゃない?」
ぼくはもう一度よくよく彼女を眺めてみる。うーん、やはり髭じゃないだろうか。
「何見てんの?」彼女が訊く。
「たぶん、オーストラリアから来たんだと思いますよ」ぼくはいう。
「ふうん、オーストラリア? そうかも。でも、どこから来たかはどうでもいいでしょうよ。どっちにしても、こういうイスラム教徒にはいらいらすんのよ」
未来は変わるという本。前にも劇的に変化する未来について語る本があったが、どうしても思い出せない。比較しようと思ったのだが。その本でも、変化は加速し、寿命も克服できると書かれていた。何とかそれまで生きなさいと。私もそれまで生きなければと思ったのだが、本書でもやはり老化は克服できると書かれている。本当に克服できるのだろうか。
もう少し落ち着いて中身を見てみると、まず変化の速度が速くなっていると著者らは警告する。今までは想像もできないような速さになるという。変化同士が相互作用をしてもっと速くなるというのだ。コンピュータの速度はどんどん速くなってきたが、従来の方法では限界がある。それを打破するのが量子コンピュータであり、桁外れの演算速度が実現し、それに基づく人工知能も発展するという。世界を覆い尽くすネットワークの許で、ものの売り方(広告)が変わり、金融が変わり、教育が変わる。高度なバイオテクノロジーによって医療が変わり、老化すら克服できるという(もちろん、不老不死になるといっているわけではない)人類は、都市に集まるようになり、地球からも脱出できるし、さらにはネットワークへ接続することによって、クラウドベースの集団意識へと移行するとか(ちょっとそれはどうかと思うが)。
著者らは、この変化は人類をよりよくしていくと考えている。人類の未来を暗く予測する本もあるが、こういう意識は読んでいて気持ちのよいものである。その世界で私たちが目指すべきものは、贅沢な暮らしではなく可能性に満ちた世界だという。その中で個人が可能性を持ち続けるためには、常に学び続けることだとも。
大変革が続く未来を思い描く姿勢は何かに似ているなと思った。つい最近見かけた……何だっただろうかと思い巡らし、どうやら私の頭にあったのは、ARK Investment Management の未来予想だったようだ。さまざまな技術革新が組み合わさって大変革がもたらされる。そのための投資をしようという会社である(投資会社だから)。共通した未来に対する楽観があるように感じる。そして、その未来に対する楽観が私は決して嫌いではない。
以前から毎日本を買ったら記録をしていて(この頃は毎週だけど)、ここの別の日記の方に買った本を列挙するとき行頭に●とか○とかを付けるようにして、その他の理由では決してこれらの丸を使わないようにしている。日記本文はMySQLに収納されているので、月ごと年ごとに丸の数を集計すれば買った本の冊数が判るというわけである。
それを数え上げ、gnuplotでグラフにしていた。Ubuntuではgnuplotをatp-get install... とやれば簡単にインストールできたのだが、Amazon Linux 2ではそれができない。そこで、JpGraphを使ってみることにした。
ダウンロードページから最新版をダウンロードしてきて、適当なところに展開する。基本的にはこれだけでいい。今回は日本語を使いたかったので、jpg-config.inc.phpの中にある日本語フォントを指定する行を:
define('MBTTF_DIR','/xxx/xxx/jpgraph/fonts/ja/');と書き換えた。/usr/share/fonts みたいなところでもいいのだけど、ipag.ttf と ipam.ttf が別のディレクトリにあるのをどうしたらいいか判らなくて、jpgraph内のfontsに両ファイルをコピーした。フォントはyum install ipa-gothic-fonts ipa-pgothic-fontsとやっただけ。
グラフを描かせるphpファイルの方には、冒頭で:
set_include_path("/xxx/xxx/jpgraph"); require_once("jpgraph.php"); require_once("jpgraph_line.php");としておく。今回は折れ線グラフなのでjpgraph_line.phpを使う。
MySQLデータから和書と洋書の数(●と○の数)を月ごとに集計するのは省略して、それぞれの集計値を$out_wa、$out_you、合わせた数を$out_ttlとしている。そこで:
$graph = new Graph(600,400); $graph ->setScale('textlin'); $graph->SetMargin(40,20,10,80); $graph ->legend->setFont(FF_GOTHIC, FS_NORMAL, 10); $graph->xaxis->SetTickLabels($xarray);として、グラフの大きさ、マージンの大きさ(これを調整しないと凡例がX軸ラベルと重なったりしてしまう)、フォントの種類などを指定する。
$line_wa = new LinePlot($out_wa); $graph -> Add($line_wa); $line_wa -> SetLegend('和書'); $line_yo = new LinePlot($out_you); $graph -> Add($line_yo); $line_yo -> SetLegend('洋書'); $line_el = new LinePlot($out_elc); $graph -> Add($line_el); $line_tl = new LinePlot($out_ttl); $graph -> Add($line_tl); $line_tl -> SetLegend('和書+洋書');のようにして線を3本設定して、
$graph->Stroke();で描かせる。
するとこんなふうになる。
こういう内容のグラフなら、積み重ね棒グラフの方が相応しいと思うが、まあいいのだ。